British Rock

『この世はすべてショービジネス』ザ・キンクス

クロスレヴューvol.1


No.1

名前

エーハブ船長

電子メール

yutayuta@iris.dti.ne.jp

URL

http://www.iris.dti.ne.jp/~yutayuta/index.htm

いつ聴いたか

1993年

その時の境遇

大学生

今でも聞きますか

社会人になってからの方がよく聴くようになりました

レヴュー本文

何のかんの言っても、音楽を聴く上である程度の「思い入れ」は必要だと思う。それが世間一般に言う名作でなくたって構わない。たとえ駄作と言われているものでも構わないと思う。重要なのは、その音を聴いたときに幸せな気持ちになれるかどうかだ。もっとも幸せの感じ方は人それぞれ違うので一概には言えないと思うが、要するに名盤といわれる作品なんて各自が勝手に決めてしまえば良いはずではないだろうか。そう言う意味では、ここに紹介するキンクスの『この世はすべてショービジネス』は僕にとってまさに不滅の名作と呼びたくなるアルバムである。キンクスにとってはRCAからの2作目、パイ時代を含めると12枚目の作品集(編集盤除く)にあたる作品だ。

このアルバムを一言で説明すれば、「バンドがもっともアブラの乗った時期に製作されながらまたもやヒットし損ねたレコード」ということになるのだろうか。それでも最高100位(ビルボード誌)だった前作に比べればまだ少し良く、全米チャートで最高70位に届いている。アルバムの充実度を考えればもっと売れて然るべき作品なのだが、おそらくは何かのめぐり合わせが悪かったのだろう。発表当時シングルカットされた不滅の名曲「セルロイド・ヒーローズ」ですらDJ達に「放送するには曲が長すぎる」と判断されてしまいろくにオン・エアーされなかった様だ。しかしアルバム自体は『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』や『サムシング・エルス』に全く引けを取らない内容だと思うし、やはり本作が売れなかったのは、少しばかり彼らの運が悪かったからなのだろうなと思う。

前置きが異様に長くなってしまったが、本作の内容について書くことにしよう。LP時代は2枚組で発表された作品で、1枚目がスタジオ録音、2枚目は72年ニューヨークのカーネギー・ホールにおけるライヴを収録している。それにしても僕がこのアルバムを聴いていつも感じるのは、どうしてイギリス人は時としてこのようなアメリカを感じさせるアルバムを作ってしまうのだろうか、ということだ。ここで聴ける音楽は基本的にはロックなのだろうが、アルバム全体にフューチュアされた明るいブラス・セクションやリズム・セクションのルーズなノリは生粋のブリティッシュ・ロック・バンドの作品というイメージにはちょっと合わない気がする。それでも楽曲の出来はどれも素晴らしく、独特のペーソスあふれる歌に浸っていると本当に幸せな気分になる。

収録曲で一番有名なのはスタジオ・サイドの最後を飾る「セルロイド・ヒーローズ」だろう。ハリウッドが与えてくれた夢と現実の悲しさをしみじみと歌い上げたこの曲は、まさしく聴いているだけで自然に涙が溢れ出てくる希代の名曲だと思う。僕は90年代に入ってから二回キンクスのコンサートに行ったが、この「セルロイド・ヒーローズ」はどちらの時もライヴ盤『ワン・フォー・ザ・ロード』と同じアレンジで演奏されていた。出来としてはやはりオリジナル・ヴァージョンが一番だと思うのだが皆さんはいかが思うだろうか。

むろん本作の聴き所は「セルロイド・ヒーローズ」だけではない。同曲があまりに有名なためか他の曲はあまり話題にならないが、それらを無視してしまうのは絶対に間違いである。たとえばスタジオ・サイドの「シッティン・イン・マイ・ホテル」の美しいメロディやデイヴ・デイヴィスの唄う「ユー・ドント・ノウ・マイ・ネーム」の明るさにも目を向けて欲しいし、ライヴ・サイドの出来栄えだって絶対に素晴らしい。特にこのライヴで取り上げられた「トップ・オブ・ザ・ポップス」、「ブレインウォッシュト」、「ホリデイ」、「アルコール」そして「マスウェル・ヒルビリーズ」の仕上がりはどれも確実にスタジオ・テイクを凌駕する出来だ。何といっても目立っているのはレイの歌だが、デイヴの少し荒っぽいギター・ワークやミック・エイヴォリーの躍動的なドラミングもとても良いと思う。そう言えば98年に出たリマスターCDには「ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・デイ」と「シー・ボウト・ア・ハット・ライク・プリンセス・マリーナ」の二曲の未発表ライヴ・ヴァージョンが追加収録され、どちらも良い出来(特に後者 !!)なのでファンならば必聴である。

考えてみれば、一生付き合っていきたいと思える音楽に出会えるなんて本当に幸せなことだ。後ろを振り返るように考えてみたが僕は落ち込んだときや疲れているときほど本作を良く聴いていることに気付いた。そういう意味では本作が自分にとって大切な「癒しの音楽」なのは間違い無いと思う。明日を迎えるのが辛いときでも、夜空を見上げて「セルロイド・ヒーローズ」を口ずさむだけで何だか希望が湧いてくるのである。(Mar.99)


No.2

名前

電子メール

xenon-cd@02.246.ne.jp

URL

http://www.02.246.ne.jp/~xenon-cd/

いつ聴いたか

77年頃かなー

その時の境遇

はっはっはっ、浪人してました。

今でも聞きますか

聴きますとも!一曲だけ。それは本文参照してください。

レヴュー本文

このサイト上での同僚であるエーハブ船長氏が、ここで取り上げるアルバム候補を色々と列挙しているときに「俺は『この世はすべて..』なら書くよ」と言ったら彼はあっさりと認めてくれた。ここは約束を守らねばなるまい。

私は実を言うと、このアルバムは通して1、2回しか聴いたことがないのです。基本的にRCA時代のキンクスは大ブロシキを広げすぎだし、レイ・デイヴィスさんは完全にロック・オペラ狂いしまくっており、アルバム全部を通して聴くのは結構辛いと白状してしまいましょう。おまけにこのアルバムのアナログ二枚目のライヴには聞きたいと思う『ヴィレッジ・グリーン』『サムシング・エルス』からの曲は収録されてなかったり、「ローラ」はさわりだけだったりで、欲求不満になるだけなんだもん。にも関わらずなぜエーハブ氏にお願いまでしたかといえば「セルロイド・ヒーロー」であります。ハッキリ言って60年代に登場したブリティッシュ・ビート・グループが70年代に残した3大バラード曲の第一位であると信じて疑わないのであります。何?他の2曲?それはホリーズの72年作『ディスタント・ライト』に含まれる泣きのサックスがたまらない「Look What We've Got」とお馴染みザ・フーの『四重人格』のクライマックス曲「Love, Reign O'er Me」の2曲なんですがね。

切々と歌い上げるレイ・デイヴィスのちょっと振えるような独特のヴォーカルと美しいメロディー、まったくもって文句のつけようのない「セルロイド・ヒーロー」が入っているだけでこのアルバムは大変重要なのです。これで歌詞が失恋思い出ソングの「ウォータールー・サンセット」みたいだったらもっと良いんですけどね。とかく低く評価されがちのRCA時代は残された実績からすれば止むを得ないとはおもいますけど、『マスウェル・ヒルビリーズ』と「セルロイド・ヒーロー」だけはやはり聴いておかなくちゃね。(Feb.99)

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