British Rock

『狂気』ピンク・フロイド

クロスレヴューvol.1


No.1

名前

Britishぱぱ

電子メール

bpapa@sunshine.ne.jp

URL

http://www.sunshine.ne.jp/~bpapa/

いつ聴いたか

1973年、発売と同時にすぐ購入

その時の境遇

中学生

今でも聞きますか

レコード棚の肥やし状態、但し一枚のコレクションとしては大変重要

レヴュー本文

 1973年。週末の夕方にテレビ放送されていた「リブ・ヤング」という若者向け情報番組の中で評論家の今野雄二氏が「今度出るピンク・フロイドのアルバムは凄い」と興奮気味に紹介し、それを見た私は何がなんでも聞きたいと思った。LP一枚2000円、その頃の中学生がホイホイ買える価格ではない。そこで私は一大決心をし、間近に迫っていた修学旅行のお小遣いを購入資金に充てる事に決めた。かくして私は、わざわざ旅行先の京都は新京極のレコード屋でこの『狂気』を購入し、新幹線で当時住んでいた横浜までこれまたわざわざ持ち帰ったのであった。私に影響されたクラスメートはシカゴのアルバムを購入した。彼が購入したアルバムは二枚組3600円だったから、決められていた小遣いの限度額を越えた資金をヤツは用意していたのだ。アルバムに同梱されていた二枚のポスターに加えて、店頭でイラストレーターの宇野亜喜良氏が描いた、やたらかっこいいポスターまで付けてもらい感激した。(あのポスター貼って痛んだから捨てちゃったんだよなー、勿体ない。)

 このアルバムから受けた衝撃は計り知れない。ラジオのヒット・チャート中心に洋楽を聴き始めたばかりの初心者だった私は、クリムゾンの『宮殿』と並び知らない世界を訪問した喜びと興奮に心湧きたてたものだった。暇さえあればこのアルバムばかり聞いていた。まるで猿のオナニーだった。

 確実に自分史に残るこの一枚だが、現在は全く聴かない。それどころか、批判的でさえある。フロイドの歴史を自分なりに区切ると『原子心母』〜『狂気』の第三期フロイドは特に疎遠になってしまった。例外的に『雲の影』だけは好きだが。

 自分が何時からフロイドに対しこれほど冷淡になったのか定かではないが、この時期のフロイドの音楽は機をてらったギミックやトリックに支えられたものにしか聞えなくなってしまったのだ。このアルバムの中にもそんなトリックが満載されていて、心音から赤ん坊の泣き声に導かれるスティール・ギター、男が走りまわる音や時計の音、キャッシャーの音がそのままリズムに引き継がれるなどのワザは見事ではあるが、音楽本体とは何ら関係ない。鬼気迫る女性スキャットや官能的なギルマーのギターだけは好きだが、それは後述するフロイドの発する人間臭い部分が好きなのであって、アルバム全体の発想は「原子心母」や『おせっかい』に含まれる「エコーズ」の延長と拡大だと思う。「エコーズ」のような冗漫さが感じられない点は救いだが。

 フロイドの音楽は例えばクリムゾンなどとは異なり、聴く者に猛烈な想像力の喚起を要求してくる。特に大作と呼ばれるものはその傾向が強い。ドラッグを介してこの音楽に接することができ易いであろうアメリカでは、そんな理由からかフロイド人気が異常に高い。反面『原子心母』のB面や『おせっかい』のA面、サントラ盤の『雲の影』といった小品はひどく現実的である。いきなり生身の人間臭さを漂わせてしまうところが、フロイドの不思議なところだ。これがクリムゾンとは決定的に違う。「原子心母」「エコーズ」『狂気』といった大作は人間臭さにフタをし、難解で哲学的・思索的な面を演じることによって成立した作品群のように聞える。この時期を高く評価しているファンには申し訳ないが、スパイスの味付けだけでは物足りなくて、化学調味料や人工着色料に頼らざる得なくなった食品のように私には思えてしまう。もっとも『狂気』がモンスター級に馬鹿売れしたのは、そうした側面と人間臭さとの境界線付近で作られたせいかも知れない。音的には「原始心母」や「エコーズ」よりもずっと明解で判りやすかったし、明らかにそれまでのバンドの歩みと経験が積み重なった結果のピーク(到達点)であったことは否定できない。

 ところがピンク・フロイドのメンバーは"プログレッシヴ"であり続けるには、生真面目で不器用な人達だったのだろう、この作品の反動が次作の『あなたがここにいて欲しい』という、思索的な姿を演じきれないバンドの葛藤を露呈してしまったタイトルにも表れている。

 フロイドの作品ではシド・バレットの実験精神を引きずり続けていた(まだスパイスだけの味付けだった)『ウマグマ』までと、ひどく現実的な『原子心母』のB面と『雲の影』といった小品集が好きだ。自分が歳を取り、アマチュアとは言えバンド活動も経験した後では『狂気』は種明かしが終わった手品を見るような思いだ。(「だったら自分で演奏してみろ」って言われりゃ閉口するしかないですけど。)

 現在のデイヴ・ギルマーのフロイドは明らかにこの『狂気』と本格的ロックオペラとも言える『ウォール』を念頭において曲を作っている。アメリカを中心としたフロイド支持者が望んでいる音を出すための選択肢としては賢明ではあるが、反面この二作はフロイドというバンドに、冨と名声を与えた代償に大変重い手枷足枷をはめてしまった作品のように思う。 (oct.98)


No.2

名前

千冬

電子メール

chifuyu@ps.ksky.ne.jp

URL

http://www.ksky.ne.jp/~chifuyu/

いつ聴いたか

1977年頃

その時の境遇

高校生

今でも聞きますか

聴かない

レヴュー本文

 このアルバムを一言で言えば「分かり易い」とい事になるであろう。その結果、「売れた」のだと思う。誰にでも理解出来そして共感できる音楽がやはり売れる為の条件になると思う。

 「THE DARK SIDE OF THE MOON」(狂気)以前のフロイドは繊細な音でイメージを与え聴き手に想像させる手法をとっていた思う。ところがこのアルバムではSEを多用し直接的な音の表現になっている。詞もやはりイメージを伝えるのでなく言葉自体を伝えている。この変化が「難解」なイメージを解き放ったと思う。それが「分かり易さ」の一つになっていると思う。

 このアルバムのコンセプトもまた「分かり易い」と思う。ここでのコンセプトは、誰でもが持つ「不安」である。これは人が生きていく為には必ずつきまとう。「不安」は「心の調和」が崩れた時に発生する。「TIME」、「MONEY」、「US AND THEM」などは典型的な「心の調和を崩壊させる」表現ではないだろうか?そして最後に「ECLIPSE」で宇宙規模の「調和の崩壊」を巧みに表現し幕を閉じる。この「宇宙規模の調和の崩壊」を発生させるのが「THE DARK SIDE OF THE MOON」になる。

 アルバムを構築している個々の曲の出来も素晴らしい。個々の曲だけでも十分魅力を感じる事ができる。と言うことは、個々の曲がポップなのではないだろうか??「分かり易い」為にはポップである事が重要であると思う。

 かなり強引な解釈になってしまったが、このアルバムの成功はこの「分かり易さ」の上に成り立っていると思う。

 プログレが70年代中頃から衰退していく中でフロイドは「THE WALL」と言うビッグ・ヒットを作りあげた。それは「THE DARK SIDE OF THE MOON」で早くも「分かり易い」音楽を構築していたからではないだろうか?「THE WALL」は「THE DARK SIDE OF THE MOON」で得た方法論を使いもっと「言葉」に比重をかけただけだと思う。その後のフロイドも同様な方法論を用いている思う。と言うことは、「プログレッシブではなくなった」という事であろう。

(oct.98)


No.3

名前

エーハブ船長

電子メール

yutayuta@iris.dti.ne.jp

URL

http://www.iris.dti.ne.jp/~yutayuta/index.htm

いつ聴いたか

1985年頃

その時の境遇

中学生

今でも聞きますか

たまに聴きたくなる

レヴュー本文

このレビューを書くために、およそ一年ぶりに本作を聴き直してみた。一曲目の「スピーク・トゥ・ミー」のイントロで心拍のような低音が鳴り始めたとたん、いきなり自分の暗い青春時代がフラッシュバックしてきて思わず困ってしまった…かつて僕が本作を狂ったように聴いていたのは15歳の頃で、まだロックを本格的に聴き始めて一年も経っていなかったはずだ。当時の頭でっかちな少年だった自分が、本作を聴きながら考えていた色々な思い出が一気にカムバックしてきたのだから困っても仕方が無いと思う。

さて「狂気」だ。原題はThe dark side of the moon、すなわち「月の裏側」である。いったいこのタイトルが何を意味するのか、考えたことはほとんどない。何かの本で渋谷陽一が本作について持論を述べていたが読む気にもならなかった。他人の解釈なんてどうでも良くて、ただ僕は本作を聴いてボーッとして過ごすのが好きだったのだ。基本的にそのスタンスは今でも替わっておらず、特にフロイドの音楽に特別な意味を求める気にはならない。

本作で思い入れがあるのはやはりB面のコンパクトな楽曲群だ。シングルにもなった大有名ナンバー"Money"のリフは4分の7拍子で、これは僕が「奇数拍子」というものを初めて意識した曲だった。印象的なベースのリフが偶数拍子では無い事に気づいたのは18歳の時だったからかなり遅い覚醒だったとも言える。そして次の"Us and them"は本作の収録曲で一番好きだった。今聴いてもやはり美しい曲だと思う。途中で聞こえる不思議なナレーションや、さざ波のようなキーボード、優しく響くサックスが絡み合って行く様子にはかなり感動させられたのを覚えている。その後の"Any color you like""Eclipse"へと続く流れは、15歳の僕にとってはまさにそれまで聴いた音楽で意識した事の無い展開だった。どう考えてもアルバムのクライマックスにあたるパートなのに強力に盛り上がる訳でもなく、なのに聴いた後しっかり感動できたから不思議だった。今回じっくりと聴き直してみたがやはり印象は変っていない。波がたゆたう様な、ゆったりとした厚みのある音楽に聞こえた。この展開について他の人がどう感じているのか、個人的には興味がある。

僕はついこの間28歳になった。本作を初めて聴いてからもう13年経った訳だ。誕生日の翌日の夜、突然「原子心母」のB面が聴きたくなっておよそ3年ぶりくらいに“If”を聴いた。ロジャー・ウォータースの書いた美しい曲で、大好きだったナンバーだ。久しぶりに聴いてみて、昔よりも自然な気持ちで聴けるのがわかった。きっといつの日か「狂気」も別の角度から聴けるようになると思うが、今のところはこの「たゆたう波の様な」不思議な雰囲気を気に入っている。 (oct.98)


No.4

名前

obi-wan

電子メール

obiwan@bd.mbn.or.jp

URL

http://plaza20.mbn.or.jp/~tmoq/

いつ聴いたか

1973年5月

その時の境遇

中学3年生

今でも聞きますか

忘れた頃に聴く

レヴュー本文

私が初めて聴いたフロイドのレコードはこれ。原題、放題共にかっこいいじゃないですか。黒地にプリズムのジャケットもわくわくものでした。当時、なかなかA面が卒業できなかった。不気味な笑い声に続くけだるいスライド・ギター。まるで虚無の世界へ導くように、身体全体にまとわりつくようだ。

そして続く"ON THE RUN"ではSEを旨く使い聴く者を追いつめていく。そして "TIME"で出口のさい世界へ追いやられ、"GREAT GIG IN THE SKY"で完全にダメ押し。そこで残るのは「絶望感」しかない。さらに続けてB面を聴くには、気合が必要だ。個人的には、後から聴いた「おせっかい」や「ウマグマ」のほうが好きなのだが、フロイドと言えばやはりこのアルバムを思い浮かべてしまう。だてに十数年ビルボードのチャートに残っていない。まさに「怪物」と言えよう。(Nov.98)


No.5

名前

野田屋

電子メール

nodayasu@msn.com

URL

いつ聴いたか

1973年

その時の境遇

大学生

今でも聞きますか

もってますがめったに聞きません

レヴュー本文

プログレゆうーたらトヨタのクルマちゃうんか?なにゆーてんねん、キミー・・・そらちゃうでプログレゆうたら中学のエイゴの教科書やろが????すいません、つかみネタはこのぐらいにして本題へ入らせてもらいまっしょい。さて、ピンフロというとですね、あんたピンサロやないですヨ、間違えたらあきません。ピンフロなんですねェ。

(ヨドガワですゥ)今を去る25年程前、四半世紀もさかのぼった大阪は中之島フェスティバルホールです。すごいですねェ。73年か74年でしたか、あのピンフロが箱根のアフロディーテたらゆう野外フェスの草分けのようなイベントに出演したその帰りの駄賃に唯1回のホールコンサートを大阪でしてくれたんですねェ。いやーびっくりしましたですねェ、席のうしろからキャシュレジスターのガチャーンゆー音が聞こえるんです、そおあの名曲「マネー」だったんですねェ。ほんとスゴイですねェ。でも、それしか覚えてないんです。でもデブ・ギルモア、シツレイ、デイブ・ギルモアよかったですねェ、リック・ライト、ロジャー・ウォーターズ、ニックメイソン・・みんなよかったですねー。これ、この音、イギリス人ですねェ、アホのアメリカ人これできませんねェ。インテリですねェ。そういうことで今日は、ピンクフロイドの『狂気』ご紹介しました。 サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。

先生ありがとうございました。いやそれにしてもいつもながらの的確なご指摘、そうです、プログレはアホのアメリカ人にはでけしません。やっぱりあの陰気な天気に熟成された陰うつな曲がりまくった性格なしにはプログレはかたれません。何を好き好んで簡単な音をわざわざ複雑にするんでしょうか?本当に理解に苦しむ民族性ですが、とはいえイエスやらキャメルやらいろいろありますが、ピンクフロイドでしょうね、やっぱり。ネーミング勝ちやとしか思えまへんな。時代のイメージでしょうか・・・なんか知らんけどオッシャレーなもんでした当時は。源氏名は時代を映す・・これ鉄則(Jan.99)。

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