American Rock

『南十字星』ザ・バンド

クロスレヴューvol.1



No.1
名前 テリー横田
電子メール terry@futaba.ne.jp
URL http://www.futaba.ne.jp/~terry/
いつ聴いたか 1999年
その時の境遇 通して聴いたのはつい去年
今でも聞きますか もちろん。
レヴュー本文

 思い切り私ごとから始めちゃいますが、20代の私はコンピュータ業界という、かなり変則的に忙しい職場におりました。
 もともと文系の人間が何をはやまったのか花の御江戸でヘボ・プログラマになっていたのです。当然出来が悪いので苦労しました。しかし仕事はきつかったものの、休日遊びに出るには都会はやはり刺激に満ちた天国です。面白い人間もいっぱいいます。
 最初のうちは休日ごとに出かける余裕もありましたが、やがて仕事も本格的に立て込んでくるとそうは言ってられません。一年二年と経つ内に、ドツボの仕事に捕まったせいもあり残業地獄の日々が始まりました。夜中の2時3時に終わっても翌朝はきちっと8時に来いといわれ、日曜日もなんやかやと残務で出なければならない。神経も磨り減らすし余裕もなくなってくる。そんな生活が何ヶ月も続きます。
 案の定私は病気になってしまいました。もともとスチャラカプログラマです。もっけの幸いと私は仕事を辞め、田舎に引っ込み、実入りはぐっと減るがのんきな仕事につくことになりました。
 ところが勝手なもので、田舎に帰ったら帰ったで、今度は変化のない単調な暮らしになんとも我慢がなりません。故郷には中学・高校時代の友人達がいましたが、彼らは彼らなりに大人になり、野心など微塵もなく黙々と生活を送っていました。私はなんとなく彼らとも話が合わなくなり、休日など一人でぶらぶらと、田舎道をあてなく歩いて暇をつぶす、そんな生活が続きました。

 そこに育った者にとって、田園の風景は全然美しくなんかありません。野粗な、抗しがたい山や川が、ただ歴然とそこにある。自分はここから逃れられない。山や田んぼはまるで刑務所の濫のようにも見えました。
 と、そんな時にふと、ザ・バンドが頭のなかで響いたのです。このアルバムに入っている「アルケディアの流木」だったような気がします。昔聴いたその曲が、頭のなかで思い出されたのか、ラジオで流れたのを聴いたのか、定かではないのですが、田舎暮しも落ち着いて都会をうらやむ気持ちが薄らいで来たころ、ザ・バンドが染みてきたんです。

 今、つらつらと考えてみると、都会での挫折体験と帰省直後の葛藤のようなものを経て、それにある程度見切りをつけられるような、気持ちに余裕が出てきたせいで、こういったダウナーでルーズな音楽が、本当の意味で心に入りこむ余裕ができたのかな、と、そう思います。20代の頃は、このザ・バンドの音楽を、「好みだよ」と言ってはいましたが、どこかなじめない部分があった。うなるギター、切れるリズム、カタルシスをぶっ飛ばすシャウトなど、上っ面のカッコ良さのほうに、やはり耳が反応していました。

 そんなわけでこのアルバム「南十字星」も、しっかり全曲を通して聴いたのはつい去年のことです。クセは強いしロック的なかっこよさは微塵もないけれど、まろやかでノスタルジックで、アメリカの大地の匂いがむんむんする、心からの歌と演奏が並びます。
 レヴォン・ヘルム、リチャード・マニュエル、リック・ダンコの3人のシンガーにもまして、バンドのサウンドカラーを決定しているのは、キーボードのガース・ハドソン。ハードロックのように派手なソロを担当することはありませんが、曲の要所要所で聴かれるオルガンやアコーディオンでのオブリガートは全く独特のものです。地味ながらツインキーボードの編成はアレンジの緻密さとなって現れていると思います。決してルーズな演奏ではなく、結構計算されている面があるのではないかと思います。
 コクのある歌と演奏も素晴らしいんですが、アルバムをちゃんと聴いてみて、ロビー・ロバートソンが書く、その「歌詞のすばらしさ」に、今一番感動しているところです。どの曲も自然の情景描写を織り交ぜ、大地に根を下ろし、精一杯生きている人間……しかし、あまり報われることがないが……を、優しい目線から描いています。古きよき時代に憧れる浪漫的な視点は、単なる懐古趣味などではなくて、新しい時代に生きるための自分の存在基盤を確認し、エネルギーを与えてくれる、そんな気がします。

 現実を、現状を、肯定することなしには、人間は前には進めない。一歩引いて田舎の山々を見たおかげで、あやうく取り逃がしそうになった彼らの音楽を、少しは捕まえることができたかもしれないな、と思っていました。その矢先のリンク・ダンコの急逝の知らせは、ほんとうにほんとうに残念でなりません。(2000.2.10)



No.2
名前 ろびー
電子メール isg0@peach.ocn.ne.jp
URL  
いつ聴いたか 1995年
その時の境遇 今までの人生で一番楽しかった高校1年生
今でも聞きますか もちのろんで
レヴュー本文

ザ・バンドは僕がこの世の中で一番好きなバンドである。音楽はもちろん、その凛とした佇まいに抗いがたい魔力があるのだ。

「七人の侍」を楽団という形で表現するならば、彼ら以外にその存在が見当たらないのである。しかし、この「南十字星」は、「七人の侍」たり得た彼らの関係性が崩れるきっかけとなったアルバムでもある。つまり、ロビー・ロバートソンがついにそして具体的に、「演者」から「監督」へと、その役どころを変えていく様を収めた作品だといえる。それは、ソングライティングの全権を、半ば強引に手中にしたということなのである。

この作品は、ザ・バンド史上もっとも音質のよい作品であろう。一つ一つの楽器の音がヴィヴィッドに聴き取れ、よりタイトかつファンキーな演奏は、「田舎音楽」とは程遠い響きを奏でていた。しかし、それは僕を何故か不安にさせた。いや、僕はすでにザ・バンドが解散していたことは知っていたし、「不安」という言葉は適当ではないかもしれない。完璧すぎて怖かったのだ。
そしてそれは「寂寥感」という概念の提示でもあった。「南十字星」を聴き終えると、いつも残るのは「寂寥感」である。楽曲がたたえるルサンチマン!!ゆえではない。僕が愛して止まなかった「五人の侍」達の意識が離れ離れになっていった場。ポップミュージックはその時点での「今」をパックするものだ。しかし、それは常に僕らに幸せのみを与えてくれるわけではない。

つまり僕は「南十字星」が大好きである。 (2000.2.14)



No.3
名前 黒鯛はチヌ?
電子メール EZV00243@nifty.ne.jp
URL http://homepage1.nifty.com/kurodaihachinu/
いつ聴いたか 1984年
その時の境遇 大学受験に失敗して、駿台予備校に行ってました。(ディスク・ユニオンの近所の)
今でも聞きますか たま〜に聴きます。
レヴュー本文

 私が大学受験で浪人している頃というと、それまで思いっきりはまっていたニュー・ウェイブ系にも飽きてきて、今までほとんど手付かずだった THE EAGLES だとか THE DOOBIE BROTHERS などの1970年代のアメリカン・ロックを少しづつ聴くようになってきた頃だったと思います。同時にモダン・ジャズなんかも聴くようになっていたのですが、そんな頃に私は T という男に出会いました。

 T という男は結構アブナイ奴でした。実家が近所にあるというのに高校生の頃から一人暮らしをしていて、その部屋には毎晩いろいろな人間がタマッて酒盛りをしていました。その部屋には親戚の兄ちゃんと称する、SCORPIONS の ULRICH ROTH みたいな顔と髪形をした奴が一緒に住んでいて、そいつは顔も似ているのだけど、ギターもうまくて私もしょっちゅうギターを教えてもらったりしました。 T の部屋では私もいろいろなレコードを聴きながら、歌ったり、ギターを弾いたりしてたむろっていたのですが、その部屋でいつものように酔っぱらいながら聴かせてもらったのがこのアルバムです。

 初めて聴いた時はとにかく酔っぱらっていて、「なんか男くさいボーカルでカッコイイなぁ」くらいに思って聴いていたのですが、しばらくして知っている曲が流れてきました。「IT MAKES NO DIFFERENCE」でした。『THE LAST WALTZ』は映画を見ていたので、私は知ったかぶりをして「なんだ、 THE BAND かよ!」みたいにいって馬鹿にした記憶があります。 T は別に何にも言わなかったと思います。

 それからしばらくして、私は JOHN COLTRANE の『LIVE AT THE VILLEGE VANGUARD』というレコードを持って T の部屋に遊びに行きました。 T はこのアルバムを聴いて非常に気に入ったらしく、私に「このアルバムをくれ!」と言ってきました。私は「じゃぁ、お前の持っているレコード1枚持っていってもいいか?」と言って、持って来たのがこのアルバムです。実は、あの夜から気になっていたわけです。

 それからというもの、このアルバムの「男くさいボーカル」が気に入って、よく聴きました。それがきっかけで THE BAND が好きになり、他のアルバムを聴くにつれ、 ROBBIE ROBERTSON のギターに影響され出し、このアルバムはあまり聴かなくなってしまいましたが、今回改めて聴いてみると THE BAND のアルバムの中でも一番余裕があるというか、円熟味の極地というか、とにかく優しさと強さを一番強烈に感じます。派手な曲が少ない分、じっくり聴けるところが魅力的です。10代の頃聴いた印象と、30代も半ばに来てからの印象は大きく違うのかもしれません。

 今でも、 JOHN COLTRANE のアルバムは T の部屋にあるのだと思います。
だって、私の部屋に『 NORTHERN LIGHTS-SOUTHERN CROSS』があるわけですから…。(2000.2.15)



No.4
名前 MATT
電子メール mojim@plum.ocn.ne.jp
URL  
いつ聴いたか 1994年
その時の境遇 大学一年生
今でも聞きますか 最近またきいた
レヴュー本文

 大学に入ったか入らなかったころ、某音楽雑誌でウッドストック近辺の特集(確か)をしていた。そこにはマリア・マルダーやエリック・カズ(大好きさ!)とともに……というかその中心的存在としてザ・バンドがいた。
 待てよ、バンド特集だったかな? すいません。
 とにかく名前は知っていたが、なんだか親父臭い連中に対し、まだまだ若かった僕はちょっと違和感を感じた。というのも当時の僕は、ニュー・ウェーブ近辺の音楽を聴いていたので、当然といえば当然のこと。おじさんは敵だった。髭生えてたし。

 そんなおり、やはり同じ特集を見たであろう友達がザ・バンドを聴けとテープをくれた。
 しばらくして僕は「やっぱリチャードの声が一番だな」といっぱしのザ・バンドファンを気取ってた。そしてザ・バンドのアルバムは、レコード棚の特等席に居座っていた(いまだに)。それが全ての始まりだった。
 それからというもの、僕のレコード棚にはひげ面のおっさんが集まり始め(ジョン・セバスチャンの笑顔もあったけど)、僕もそれに加わった。汚いからすぐ剃ったけど。

 古きよきアメリカン・ミュージックに目を向けさせてくれたザ・バンドに感謝したい。 おかげで僕はそのぬかるみの中にいる。(2000.3.10)



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